卒業式
学校長式辞
三木学園白陵中学校第51期生は、本日ここに卒業式を迎えました。
ご出席いただいております多くの保護者の方々そして教職員ともども、生徒の3年間の成長を祝い、
併せて、今ここに至っている意味を確認したいと思います。
まずは、197名の皆さん、卒業おめでとう。
今日の卒業式は、ほとんどの人にとってそのまま白陵高校の入学式につながります。
そのために、卒業を特に「おめでたい」と思わない人も、中にはいるかも知れません。
しかし、3年間はそれなりの期間であり、中1の入学生が全員残っているわけではなく、
また、皆が白陵高校に行くわけでもなく、なにより皆さんの心身の状況は大きな変化を見せています。
その区切りの時にあたり、一度立ち止まり、あたりを見回すことは大事なことです。
それは同時に、ご両親・ご家族を始め、多くの方々のお世話になってここまで成長したことに思いをいたすことでもあります。
第51期生は、入学者200名でスタートしました。この大人数は先生方にとっても大変でしたが、結果から言うと、
皆さんは大変素直に指導に従い、「白陵が好き」という感覚で、日々の授業や学校・学年行事、
そして部活動に打ち込んでくれました。飛鳥、京都に行って日本の歴史を学んだ校外学習、
一番の思い出になった東北函館の修学旅行、それらをまとめた文化祭の学年展示等、うれしさが写真に溢れていました。
さらに、中学部生徒委員会は、百人一首大会の運営、広報誌「若竹」の編集発行、
校門の花の世話等にも大変意欲的に取り組んでくれました。
今年私は、白陵に来て初めて中学三年の古典(漢文)を担当しました。1学期の感想は、
中3と高1の1年間はこんなにも格差があるのかでしたが、皆さんの素直さと努力により、
いつの間にか高1を担当する感覚で授業を行うことができていました。今後の伸びを大いに期待したい気持ちです。
本校を創設した学園長が常に言っていた素直さと粘り強さ、その一端を十分示して皆さんは中学を卒業することになったのです。
中学・高校の時期を表すキイワードは「成長と変化」です。その皆さんの成長のことを思っていた時に目についた記事が、
東日本大震災5周年の特集でした。18000人が亡くなる中で、残された者はその人しか分からない苦しさを抱えて生きています。
津波に両親と妹を奪われた4歳の女の子は、そのあと母親が帰ってくると信じて19文字の手紙を書いて眠ってしまいました。
「ママへ。生きているといいね。お元気ですか」 この文言は、皇后陛下の供養の短歌にそのまま使われました。
その子は5年経って小学校3年生になり、母親の遺体が見つかった海岸を先月初めて訪れ、花束を3つ海に投げ入れました。
今まで祖父母の家で元気に育ち、正月には自分の小遣いから1000円を出して妹の写真の前に供えたそうです。
私はこういう記事に呆然とし、その成長とたくましさに驚き、人は自分が置かれた場所で常に一生懸命生きる存在だと、
改めて教えられました。
皆さんが日々抱えている困難と悩みも、この女の子の想像を絶する生活環境のそれと、
苦しみという点では基本的に大きく異なっていません。人は取るに足らない悩みでのたうち回ることもあるし、
信じられない困難に打ち勝ち、成長していく人もいるのです。前置きが長くなりましたが、白陵に通える恵まれた環境の中で、
皆さんは苦しみながらここまで来たということです。私は、その頑張りを心から讃えるとともに、
これからもっと頑張らなければならないよと言いたいのです。
そして同時に、皆さんは白陵にくるだけの能力・資質があり、将来は人のためにことをなす責任があるということを考えます。
中学生の皆さんは、遠い先の話だと思うかも知れませんが、これはどんな年齢の者も意識すべきことです。
以前も話したノーベル賞を受賞した大村智さんは、祖母から「人のためになることが一番大事なこと」と言われて育ったそうです。
授賞式の翌日の晩餐会でシルビア王妃の側に座り、王妃から「私の母親の祖国ブラジルの桃は皆小さいが、
日本人がつくるようになって大きな桃ができた。すべてがそのように、日本人の手に掛かると違ってくる」と言われたそうです。
皆さんは、そんなことより、今目の前にいくつも大きな課題がある、と言うかも知れません。それについて言うならば、
その課題を乗り越えるには、目先のことにこだわるだけでは駄目です。私が皆さんに授業して感じたことは、
一つは、もっと徹底せよということです。例えば、試験に出たことは100%理解しようと思ってください。
一度間違えたことを二度と繰り返さない努力をしてください。もう一つ、間違うこと、失敗することを恐れてはだめです。
皆さんは余りにも「間違えたら恥をかく」と思い、消極的になりすぎています。
人口知能の研究者・黒川伊保子さんは、「失敗は脳に大きな変革をもたらす」と言って、間違うことの重要性を強調しました。
間違うことは脳の成長メカニズムの一環で、成長には不可欠なことなのです。
「やめろと言ったらやめるロボットをつくるのは簡単だが、ミルクをこぼすなと言うのに、
コップを倒してその結果を吟味したり、食べられない石ころを口に入れて世の中を確認するようなロボットは作れない」
とも言っています。当然、あとの二つをしているのは彼女の子供で、その行為は大事なことなのです。
この間、囲碁の勝負で、世界最高クラスの棋士に4勝1敗で勝ったコンピュータが現れたと報じられましたが、
人間とロボットやコンピュータは根本の所が違います。
人生は、中高生の時ばかりでなく、これからも皆さんの前に出てくるのは新しいことばかりです。
怖かっていては、恥をかくことを恐れていては、いつも人の後ろから付いていくことしかできません。
できない結果を恐れず、素直に、勇気を持って、真っ正面から課題に取り組んでいってください。
中学卒業ということは、次にどの進路を運ぶかということではなく、それ以上に、
自分の今の生活を客観的に見直すことに最大の意味があるのです。生活を見直すとは、大きく3年後の自分の姿を思い描き、
同時に今日帰宅してからすべきことを確認する、いわば相反するような二つを同時に意識していくことです。
今日の卒業式がそういう意味で、真に「新しい出発の日」となることをお祈りし、式辞といたします。
平成28年3月19日
学校法人三木学園白陵中学校 校長 斎藤興哉
卒業式
第51回中学校卒業式です。
2016.03.19