卒業式

学校長式辞

 大変寒かった冬の名残もないわけではありませんが、今や春となり、桜の開花の便りも各地から届くようになりました。 この良き日に、白陵中学校を卒業される194名の皆さん、誠におめでとうございます。 野添育友会長様をはじめとするご来賓の方々、教職員一同とともに、これまでの皆さんの努力と研鑽を、 心から讃えたいと思います。また、この日まで長きにわたってみなさんの勉学を支えてこられたご家族の方々に対しても、 ここに深く敬意を表したく存じます。

 皆さんは白陵中学第53期の卒業生になります。皆さんを含めて卒業生の数は6296名になりました。 これは先月の高校卒業生数9138名の7割弱の人数になりますから、数の上では希少価値があります。 この3年間を少し思い出してみてください。 1年生の夏の臨海学習では10艇のカッターが同時にスタートしてのレースがありました。 隣の船との距離は次第に広がることもありましたが、皆さんの間の距離はそのとき一気に縮まったのではないでしょうか。 最初の白陵祭では先輩たちの力に少し気圧されていた感がありましたが、 中2、中3となるにつれたくましさも備わってきたようでした。 学年の先生方に聞くと、「中2ぐらいから自主的な企画・運営ができるようになり、 いろいろな分野にリーダーができてきた。中3になると急に大人になった」ということでした。 日頃の些細な出来事から修学旅行に至るまで、たくさんの思い出に包まれた3年間だったと思います。

 皆さんに先ほどお渡ししたのは、C6H10O5が重合したセルロースを主成分とする、 通常「紙」と呼ばれるものにすぎないのかもしれません。しかしそこには大きく「卒業証書」という文字が見えます。 これは皆さんが獲得した、誰にも奪われることのない履歴です。 そこには、その文字の左に書かれたあなたの生年月日からの、時計の針の気の遠くなるような回転数が刻まれています。 その針が回り始めたころ、周りでは何があったのでしょう。 あなたの初めての泣声への狂喜乱舞を皮切りに、その笑顔に励まされての育児物語が始まりました。 重力に激しく逆らっての直立歩行という奇跡との遭遇、また6000回を超えたであろうオムツ交換、 やがて初めて幼稚園に行く日を迎え、 ちらちらとこちらを振り返りながら恐る恐る見知らぬ集団の中に入っていった姿が スナップ写真として収められているのかもしれません。 さてあなたの方はというと、見守られているという安心感に支えられ、 やがて小学校生活の中で私学受験を志すようにもなり、迎えた白陵中学受験。勝ち取った喜びに周りの人も狂喜乱舞。 以後あなたの周りは、朝早くから朝食やお弁当の準備、制服を整え、あわただしく送り出す日々。 成長に目を細めることもあるが、思春期の疾風怒濤に見舞われることも。そうしてこの3年が経ちました。 もう一度証書に目を向けると、地球上の他の誰でもない自身の名前とあなたが何を成し遂げたか書かれています。 また6103から6296までのいずれかの番号が記されています。 このあなたにしかないただ一つだけの番号は、皆さん一人一人に対する、先輩一人一人から繋がった励ましのメッセージです。 あとはこれらのことを保証する日付と学校名と、最後に「こちょっ」と校長名が・・・。

 さて、白陵は文部科学省が定める、中学から高校に無条件に進学する中高一貫教育校とは違うスタンスをとっている 中高一貫校です。違いは、中学3年時に進路変更も含めて一度しっかり考えてもらう機会を設定しているところにあります。 それが丁度この年齢において必要なことだと考えるからです。白陵高校へ進む人も、単なる継続と思わず、 ここで立ち止まってみてください。

 若くして亡くなった哲学者の池田晶子さんは、中学生などに向けた哲学書の中で、 私たちが陥りがちなある倒錯を指摘しています。つまり、どうやって生きていこうかということは、 生きているということがどういうことかを考えた後では変わってくるはずなのに、 このWhatを問うより前にそのHowを問うというのはおかしい。順番がひっくり返っているという指摘です。 確かに書店では、ハウツーものの本はたくさん置いてあっても、それが何かを問う本はあまり見かけません。 わたしたちは、人生というものを一本の直線のようにとらえがちです。 そして、その直線を中学、高校、大学、就職、退職、老後と区切り、各区間では目的が未来に設定され、 逆に未来から今の行動が規定される。老後のための就職、就職のための大学、大学のための高校となり、 生きているとはどういうことかという問いは常に先送りされるとき、私たちの「今」は無駄の許されない、 楽しめない空疎なものになってしまいます。一方、たとえば先週の金曜日、平昌パラリンピックの 「バンクドスラローム」というスノーボード競技で金メダルの成田緑夢さんは、インタビューで 「このあとはどこに向かってチャレンジしていきますか?」と聞かれ、「この優勝のポジションをかみしめる、 それに全力を尽くしたいなと思います」と笑顔満面で答えていました。 このように常に今を全力で生きるという突き抜けた考え方と、 前者のような未来に前のめりの姿勢とはずいぶん開きがあります。

 さしあたっては、生きているとはどういうことかというような面倒くさいことを考えなくても生きていけますし、 このWhatとHow も意識しないうちにない交ぜになって去来しているのが現状でしょう。 しかし、そのようにして、ただ現実に流されていているだけだとすれば、そこに本当の自由はあるのでしょうか。 今日は是非、家に帰ってから卒業証書を見直してください。そこに浮かび出る自分の存在の不思議を感じてください。 それは今あなたが生きているというのがどういうことなのかという問いが生まれてくる瞬間です。 このような問いが出てくるというのが、ロボットやAIにはない人間ならではのことです。 価値を判断できるというのが人間のもう一つの値打ちです。答えは簡単には出てこないでしょうが、 自ら問うてみて、新たな価値を見出してください。間違ってもよろしい。 これが中学を後にする皆さんへのお願であり、はなむけの言葉です。 難しいことを要求しているのかもしれませんが、皆さんにはこれができると信じています。 いや、いつも楽しそうに学校に通ってくる皆さんの中にはすでにそのようなことができている人も たくさんいるのではないかと思います。それこそ白陵中学校の希少価値の中身であってほしいと思います。 この学校を巣立つ皆さんのさらなる成長を祈ります。

 終わりにあたり、本日、卒業生を祝し、ご列席くださったご来賓の方々、 保護者の皆様に重ねて御礼を申し上げますとともに、この3年間、本校の教育活動にご理解、 ご協力を賜りましたことをこの場をお借りして改めて御礼申し上げます。

 本日は誠におめでとうございます。

 平成30年3月20日
              学校法人三木学園白陵中学校 校長    宮﨑 陽太郎

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卒業式

第53回中学校卒業式です。

2018.03.20








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