卒業式
学校長式辞
寒暖の差の激しかった冬の名残もないわけではありませんが、今や春の日差しとなりました。
桜の開花も間近に感ずるこの良き日に、白陵中学校を卒業される195名の皆さん、誠におめでとうございます。
下山育友会長様をはじめとするご来賓の方々、教職員一同とともに、これまでの皆さんの努力と研鑽を、
心から讃えたいと思います。また、この日まで長きにわたってみなさんの勉学を支えてこられたご家族の方々に対しても、
ここに深く敬意を表したく存じます。
皆さんは白陵中学第54期の卒業生になります。ご承知のように、白陵が他の多くの私学と異なることの一つに、
文部科学省が定める「中高一貫教育校」ではないということがあります。
つまり自動的に白陵中学から白陵高校へ進学するのではなく、
個々にとってよりよい選択があればそれを尊重するという考え方を取っています。
したがって中学の卒業式は、自ら選び取った新たな旅立ちへの意志をお互いに確認しあい、
それを祝福するという意味深い儀式となります。
3年前のことを思い出してみてください。入学式を経ての初めての夏、臨海学習がありました。
カッター訓練、サイクリングなどを彩ったのが、青い空、白い光、黒い顔でした。この酷暑を見事乗り越えたのですが、
次の年から臨海学習は5月末の開催となりました。中2の夏は、山でのキャンプ。
夏の強いエネルギーを得て雲行きは怪しくなりましたが、何とか雨は降らず、すべてのメニューをこなしました。
霧の中、全員で登山を開始した君たちの力強い姿が印象的でした。夜のキャンプファイヤーでは、
火の神とその伝道者のような村上先生のもと、生命の輝きの揺らめくひと時を経験しました。
中3での修学旅行は、初日の空港で飛行機が遅れ、どうなることかと思いましたが、
その後の日程はガイドさんたちも驚くほどの好天でした。十和田湖は漣に包まれて静まり返り、
天は正しく青。君たちの姿はこの絶景に恥じないものでした。このような旅行を通して、
晴男(或いは能天気?)としての打浪主任の評価は不動のものとなりました。
君たちの特徴はと学年の先生に聞くと、多様であるとのこと。またそれを歓迎すべきよいものと認めるのに役立ったのが、
中2の冬から情熱的に取り組まれてきた「キャリア講演会」でした。今月末に開かれるものも含めて実に18回、
延べ22名の卒業生からの講演になると聞きます。今、社会が大きく変わろうとしていて、
多くの職業がなくなったりその内容を変えたりするといわれています。その中にあって、
さまざまな職業に就く先輩たちの生の声は、それを選んだ理由、やりがい、苦悩などが素直に表現されたものであり、
大変参考になったでしょう。また、学校の教室だけでなく、修学旅行で行った東北の地でも、
労を惜しまず卒業生たちが駆けつけてくれたのには驚いたのではないでしょうか。そして、その情熱に応えるように、
君たちからも活発な質問があり、それがまた講演者たちにとってもこれまでの生き方の確認となり、
お互いにとって有意義な時間となりました。
君たちはこの3年間、様々なことを勉強し、多くの先輩たちからアドヴァイスを聴き、視野は大きく広がったと思います。
自分の将来の姿を想像し、弁護士になろう、あるいは研究者になろう、起業しよう、NPOで働こう、
などと思った人もいるでしょう。このように思うのは大変自然なことです。憧れ、期待、
可能性といった欲望は君たちが生きていくための必要条件です。しかし注意してほしいのは、これらの欲望は、
いわば向こうからやってきたものであり、厄介なことに自分ではコントロールしにくいものでもあります。
一般に欲望というものは人の欲するものを欲するというかたちで育ち、自分ではコントロールできないものです。
しかもそれを叶えることは必ずしもそう簡単にできるものではありません。
もちろん叶えようと努力することで人間は成長するのですが、場合によっては大きな苦悩につながることも事実です。
つまり、まずいろいろな欲望を持つこと、これは必要です。次にその欲望を自分に照らし合わせて理解し直すこと、
検証し直すこと、そして自分だけにしかない固有の欲望や目標に仕立て上げてほしいのです。
自分に向いていると思った目標でも、向き不向きは実際にやってみないとわかりませんし、
それを実現するための最短ルートを求め、目先の具体的手段にこだわると、自分を小さく閉じ込めるものになってしまいます。
あわてる必要はありません。この際立ち止まってじっくり自分と向き合ってみてください。そうした作業を通して、
より自分らしい自分に成長していくのだと思います。本当に面白いことは若い時にはやってこないものです。
やるべきことが見つかった時、
しっかりとそれに立ち向かえるような大きな構えを創っていくことが幸せに生きていくための十分条件ではないでしょうか。
それは、将来英語を使う仕事をするからと言って、英語だけを一生懸命勉強することではありません。
それだけではそのような人を排除する篩にかけられてしまいます。その職業人にいかにしたらなれるかではなく、
どのような職業人になるかを考えてください。このとき、数学・日本史・物理・部活など、
目の前のすべてのものに力を注いだ人との差が歴然となってきます。
目の前のすべての壁は君たちが成長するための神様からの贈り物です。
小学生の時に比べ、学びを通して高い山に登り、より遠くを見渡せるようになったと思います。
中学生の時より、より高い山に登るのが高校です。そうすることによって世の中のより多様な姿が見えてくることでしょう。
教養とは見方において相対的であること、自由であることです。登っても仕方がないとは思わないでください。
方法があります。何かにつけて「しょうがない、どうしようもない」といった言葉を発しないことです。
そのような言葉を発しない勇気をもって前に進んでいってください。
終わりにあたり、本日、卒業生を祝し、ご列席いただいた来賓の方々、
保護者の皆様に重ねて御礼を申し上げますとともに、この3年間、本校の教育活動にご理解、
ご協力を賜りましたことをこの場をお借りして改めて御礼申し上げます。
本日は誠におめでとうございます。
平成31年3月20日
学校法人三木学園 白陵中学校 校長 宮﨑 陽太郎
卒業式
第54回中学校卒業式です。
2019.03.20